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mememechan’s daydream

おもに夢日記。たまにSS。

SS - 無知の知、推しの死、赤紫色編。

『魔女のさいはて』という診断メーカーの3月24日の結果を元に、書きました。

 めめめちゃんは「渇望」の魔女。結界の入り口は病院内。基調色は赤紫で、そのモチーフは彼岸花。明滅する記憶に面影を探し、亡くした人の代替を探している。
#魔女のさいはて
https://shindanmaker.com/412927

 

  からからから、点けたばかりの蛍光灯が鳴る。青白い灯は細長く白い廊下を照らし、たまにからから、と明滅した。

 右には待合室と玄関があり、外は暗い。
左には受付があり、そのどちらも同じように青白い灯に照らされていた。

 思ったより薬品の臭いがしない、(むしろ無臭な)廊下の突き当たりに手術室がある。そこで作業しなければならない、という指示が強く脳に響き、長い廊下を歩く。

 からからから、と明滅する。
その一瞬の暗闇に白い人影が見える。それは明滅することを終えた、青白い廊下の中に残像のような灰色を残した。
 あれは彼の人の影だ、と直感的に思った。
私は彼の人をもう一度ここに呼び戻さなければならないのだ。彼の人ともう一度相見えなければいけないのだ。


 からからから、と廊下の蛍光灯とは比べ物にならないくらい眩しい灯が点く。
手術台には既に人体が置かれていた。これを彼の人にしなければならない。

 「メス」
 刃物が手渡される。それを人体に射し込むと、微かな抵抗と共に腹部が切り開かれた。
 血液は出ないが、人体の内臓は浅い鼓動を繰り返している。何だか都合の良い夢みたいだな、となんとなく思った。
 「鉗子」
 また手渡される。つやつやとした新鮮な内臓は、彼の人と同じものか分からなかった。なので確認する必要があった。
 どうすれば彼の人と同一に出来るのか、または彼の人と類似のものが出来るのか。
 「メス」

 ふと疑問が浮かんだ。
……そもそもこの部屋に私以外の誰がいるというのか?
 傍らに視線を向けると、暗闇の中から真っ白な細い手が奥ゆかしく刃物を差し出していた。それを視界に入れた瞬間、これは彼の人の腕だ、と気付き、はっとした。


彼の人が死んでいることを知っている。彼の人が生き返らないことを知っている。そもそも、彼の人が最初から生きていないことを知っている。私は知っている。


 あ、と思った時には、くしゃくしゃになった死体が手術台の上に横たわっていた。
嗚呼また失敗をしてしまったどうしよう、と動揺していると、先程まで考えていたことが、文字通りぽろぽろと零れ落ちてしまって、何を考えていたのか忘れてしまった。


 私は亡骸を抱えて、建物から出た。
空は青でも赤でも無く、どこまでも真っ黒で、これっぽっちも色なんか付いていなくて、少しほっとして、埋葬するための場所に向かった。
 庭はもう、真っ白な四角い墓でいっぱいだ。墓前には赤、というよりは暗い赤紫色の花が咲き乱れていた。
 白い砂を掻き分け、死体を埋める。その上に、真新しい墓石を置いた。

 彼の人を呼び戻すことが出来なかった。

 謝罪の意味を込めて墓石を撫でると、二本の真っ白い腕が真っ白な墓石から突き出され、何かを求めるようにこちらに手を伸ばした。
 私は墓石を掻き抱く。それに応えるように、白い腕が私の体に巻き付く。
柔らかくも無ければ強くも無い、触れているはずなのに実体の無いかのような抱擁。

 私たちはしばらくそうしていた。そうすれば、直に花が咲くから。

 


 建物の中に戻ると、何者かが待合室のソファに項垂れていた。
私は、ああいやだな、と顔をしかめた。
これは異物である、と一目で分かったからだ。
 何者かは私の存在に気付くと驚いたように目を見開き、話しかけてきた。
ここはどこだ、あなたは何者か、自分は迷い混んでしまった、というようなことを頻りにまばたきを繰り返しながら話していたが、私は何者かの存在の脅威に気が気でなかった。

 嗚呼、嫌だ、嫌なんだ、他人は、嫌だ、


 「メス」

 見開かれた目、色を失う肌、その代わりに飛び散る赤色。
 取り落とした刃物、響く耳障りな音、何かが倒れる雑音。

 鮮やかな赤が、動脈血のようなその色が、生き物のようなその色が、花開いたような濃い薫香が、それらの全てが不快だった。きつく目を閉じて、全てを無かったことにしたいと思った。

 からからから、と明滅する。

 目を開ける。すると、何者かも赤色も、すっかり消え去っていて、青白い灯だけが残った。
辺りを見回す。最初の通りの、いつも通りの、青白く細長い廊下だった。それ以外の色が無いことを確認して、息を吐く。

 嗚呼、良かった。私は守られているのだ。彼の人に、この場所に、守られているのだ。良かった。本当に。
 私は胸を撫で下ろして、また手術室に向かった。今度こそうまくいくのだろうか。


 からからから、と青白い灯は明滅する。


 気付かないでいる。
彼の人が死んでいること。彼の人が生き返らないこと。彼の人が最初から生きていないこと。

 そもそも、彼の人が存在しないこと。

 気付けないでいる。